COLUMN 社長コラム

ウッドショック~今後の業界の予想

2021.06.30

かなり長文になりますが、個人的にウッドショックの分析を行いました。
ご興味がある方はお読み下さい。

ウッドショックによる今後の住宅業界予測

大分県でもウッドショックの影響で、国産材、外材共に品薄、値上げとなっており、3ヶ月後の着工に納品されるか不透明な状況である。
ツーバイフォーの場合、補助金を利用するために必要な、国産杉スタッドの入手が困難になっている。
30坪の住宅で軸組、枠組工法問わず、100万円前後の原価アップとなる可能性が高い。

今後日本の住宅産業がどうなっていくのかを予測するにあたり、ぜこのような状況になってしまったのか、その大きな理由を分析した。

(小さな理由や数値などは割愛)

理由1 アメリカの住宅建設が好調であること

コロナにより郊外に住宅を建設する家族が急増した。
同時に中古住宅の在庫が相当数減少した。
2007年のサブプライムショックと異なる点は、購買層が年収800万円以上の家庭だという事だ。
金利は3%、返済期間は30年程度 銀行の審査は日本より厳しくなっているので、需要に下支えされたものであり、バブルではない。
現在のアメリカは世帯年収600万円の層は住宅を購入することができない状況になっている。

理由2 中国での住宅需要がアメリカ並みになってきたこと

世界の木材市場における米松、SPFなどの住宅用木材の輸入量はアメリカと中国がかなりのウエイトを占めるようになった。
そのため、日本の世界における輸入量は、微小なものとなり、今回の国際取引価格の急上昇に木材商社が買付を出すことを躊躇し、外材の国内在庫が逼迫したと予測している。

理由3 何十年も国内林業を放置したため、 事業者が減少し、国産材の切り出しや製材のキャパシティーを超えている。

国産材より価格の安かった外材を利用して住宅産業が成長したため、杉、檜は価格競争に敗れ、この40年で価格が大きく下落した。
同時に林業会社、製材所なども採算が取れず、廃業などで大きく件数を減らした。
現在に至るまで、林業従事者の待遇は日当8000円前後と安く、死亡率が最も高い産業でもあることから、人材も枯渇した。

理由4 木材先物市場に投機マネーが流入した。

先物市場の 1000BMあたり1200ドル〜1600ドルへの急上昇の動き、その後の急激な利益確定の様な下げは、投機マネーが流入した際の値動きに見える。

この4つの理由が解消されれば、価格は元に戻ることになるが、おそらく全てが解消される可能性は低く、仮に解消されたとしても、やはり価格が元に戻る可能性は低い。

以下 価格が戻らない理由

アメリカの住宅需要は年率換算で過去最高を記録したわけでもなく、今回の需要は世帯年収800万円以上の家庭の消費行動によるものなので、いずれ受給バランスが正常化すると予想される。
アメリカは日本以上に貧富の差が拡大しており、かつての日本のように多くの国民が持ち家を手にすることができない国となっているためだ。よって理由1はいずれ解消されるが、年率換算150万戸ペースいうのは異常値ではない。
理由1は解消されても、木材価格沈静化の大きな影響はないと思われる。

中国の需要はアメリカと異なり、国民経済は発展途上で、中国政府も需要の有無を問わず、多額の公的資金を不動産に投入しているため、今後も需要が延びる可能性がある。
日本やアメリカ、ヨーロッパから中国に移転した多くの製造業の工場は安い労働力を武器に外貨獲得に大きな役割を果たしている。同時に中国人の国民一人当たりのGDPも増加しており、確実に国民の生活は豊かになってきている。
数年前から大分県の杉丸太は中国向けに日本で販売するよりも高い価格で輸出されている事からも、中国の経済状況の良さが窺える。
理由2が解消される可能性は低い。

日本の林業は、この30年で壊滅的な状況に追い込まれたが、今回の事件で見直される可能性が出てきた。しかし、林業に携わる人口が既にかなり少なく、林道の整備や間伐なども、まともに行われていない森林も多く、切り出しから運搬、製材までのコストが従来と同じ価格では事業化できない。

ここが最大のポイントで、日当8000円で作業員を募集しても人が集まるわけがない。日本の国際競争力は低下し続けており、国民1人当たりのGDPは1997年の世界3位から現在はなんと26位にまで低下している。外材の価格は他の輸入建材同様、値上がりするのは避けられない状況となっている。

国内林業も競合の外材が値上がりするトレンドの中で、値下げして売る必要はない。何十年にもわたり、ギリギリ生活ができる位の収入でやらせてきたことが異常である。製材所で働く作業員の収入も低い。

彼らの収入を正常値とするためには、現在ウッドショックにより値上りした価格が本来は正常な価格ということになる。

一時的に木材の価格は沈静化すると思われるが、国産材の流通量を急激に増やすことは不可能だし、木材以外の原材料の多くも今後輸入に頼らざるを得ない。
新築住宅の原価は上昇傾向である事に変わりはない。
実際、この記事を書いている最中に、太陽光パネルの来期からの値上げの話が飛び込んでた。

新築の価格が上昇すれば、新築を買えない層が増えるため、需要増の中古住宅の価格は上昇する。実際にデータ上、中古住宅の価格はどんどん上昇している。人気のある地区の土地と中古住宅の価格は今後も上昇し、不便な土地の価格は下がるだろう。

日本の消費者は「安くて高品質」を求めてきたが、結局それは、中国や東南アジアなどの安い労働力を利用して実現されたものだったので、国際競争力が低下し、購買力が落ちていくことで 「安くて高品質」という言葉は徐々に過去のものになっていくと思われる。途上国と同様に「安いものはそれなり」という時代になっていく。

その移行期がこれから始まるかもしれない。アメリカやヨーロッパでは、新築住宅は安い材料を使用した建売住宅として販売される事が一般的で、注文住宅は高額所得者層の商品となっている。建売住宅は殆ど同じタイプの家が一気に売り出される。

日本は他先進国より状況が酷く、建築原価が上昇するだけではなく世帯年収が過去30年間下がり続けている。

このような中で、世帯年収の中央値に位置する世帯が注文住宅を建てることが徐々に難しくなっていくだろう。大手ローコストビルダーのような坪単価40万円台で「安くて高品質」な注文住宅が建てられる時代は終わってしまったからだ。

人気のある地区では、土地の価格は下がりにくく、低価格帯の新築住宅として大手建売ビルダーの「安くてそれなり」の家に消費者は流れ、築年数15年以下の良質な中古住宅にも流れていく。この時点で品質の高い中古住宅の価格が上昇する。

ローコスト注文住宅系メーカーは、比較的高品質なローコスト住宅の生産が難しくなってくるので、立地的に人気がなく、建物のコスト上昇分を土地の下落分でカバーできるような郊外の土地で注文住宅を請けたり、坪単価100万円超えの大手ハウスメーカーでの建築を諦めた家族の受け皿となるだろう。

地場のビルダーはどうなるのだろうか?
建売住宅では、大手に価格面で優位に立つことは不可能だし、大手注文メーカーに品質と価格の両方で優位に立つことは難易度が高い。
住宅営業や工務、設計の人材の質にも優位性はない。

優位性が何もない工務店やビルダーは存在意義を失う。
住宅産業から退場させられる会社も出てくると予想する。

中価格帯の注文住宅は、世帯年収分布から考察すると、今以上に住宅予算が上がると、資金計画上の返済負担率が安全圏とは言えなくなる層が多いため、かなり辛い立ち位置だと思う。

殆ど全ての住宅事業者が原価上昇を避けることができない。
工務店やビルダーはこれから 本当に価値のある企業のみが生き残る。

当社は価格上昇を最低限に抑えつつ、引き続き良質な住宅を生産する企業体制を整えていく予定です。
今年の2月までの着工分の外材を確保しました。
1月以降は50棟分の材木の確保を行う予定です。
お客様に選ばれ、社会から必要であり続ける企業となるため、自社スタッフや職人チームと共に全力で頑張ります。

一覧へ戻る